知っておきたい病気
2020年7月 高血圧
藤野内科
藤野 隆
高血圧は日本では4300万人ともっとも患者数の多い生活習慣病です。この病気を放置すれば脳卒中、心臓病、腎臓病の危険が高くなり、さらに糖尿病、脂質異常症、喫煙が加われば更に危険度が増します。そうした病気を予防するのに血圧の管理は重要で、患者さんだけでなく家族の理解協力も必要です。2019年日本高血圧学会が新しい高血圧治療のガイドラインを発表しましたのでその知見も踏まえて高血圧の概念、治療について説明します。
血圧とは、心臓から全身に送り出された血液が血管を押す圧力のことで、心臓が縮んだり拡がることで発生し、その値は血液量と血管の収縮の度合い、しなやかさで規定されます。
上の血圧は収縮期血圧といい、心臓が収縮しもっとも圧力がかかったときの血圧です。下の血圧は拡張期血圧といい、心臓が拡がったときの血圧です。この時血管内には血液が存在しているので血管には収縮期ほどではありませんが相応の圧力がかかります。
高血圧とは上の血圧が140mmHg、下の血圧が90mmHgのどちらか、または両方が上昇した状態です。この状態を放置すれば血管が硬くなる、つまり動脈硬化の進行が正常血圧よりも早くなり、脳卒中、心臓病、腎臓病にかかりやすくなり、場合によっては命の危険まで及ぶこともあります(図1)。
【図1】
現在日本では4300万人の患者さんがおられますが、適切に血圧コントロール出来ているのはわずか1200万人と言われています。残りの3100万人は治療効果に乏しいか、自分が高血圧であることを知らない、または知っていても自覚症状がないので治療を行っていない方たちといわれていて注意が必要です。
高血圧には本態性高血圧と2次性高血圧があります。日本人の8~9割は本態性高血圧であり、遺伝的素因(体質)、塩分摂取過多、肥満など様々な要因で高血圧を引き起こします。
なので高血圧の予防には食生活を中心とした生活習慣の見直しが非常に大切です。特に60%が家族性の要因があると言われており、家族内で同じ生活環境を送ると高血圧になりやすくなります。高血圧と診断されたら家族内で減塩、ダイエットなどをおこなう事が大切です。2次性高血圧は、甲状腺、副腎、腎疾患などから怒る血圧であり、主に若年層に多い病気であり、適切な治療で治癒する事が期待できます。
高血圧の症状は頭痛、めまい、動悸、不眠などありますが多くは無症状です。なので無自覚に動脈硬化が進行し、突然脳卒中や心臓病を引き起こすのでサイレントキラーと呼ばれています。もし、血圧が高い場合は放置せず、かかりつけ医に相談しましょう。
診断は2019年日本高血圧学会が策定した診断基準(図2)を基に進めていきます。
【図2】
高血圧の診断には、診察室血圧、自宅で測定する家庭血圧、30分から1時間毎に測定する24時間血圧があります。2019年の診断基準ではこれまで以上に家庭血圧を重視しているとこが重要です。診察室血圧は従来通り上の血圧が140mmHg、下の血圧が90mmHgのどちらか、または両方が上昇した状態ですが、家庭血圧は上の血圧が135mmHg、下の血圧が85mmHgのどちらか、または両方が上昇した状態と定義しました。図2の高値血圧はそうした家庭高血圧を反映した基準です。これは近年の研究で診察血圧130/80mmHg以上、家庭血圧で125/75mmHg以上あればそれ未満と比較し脳卒中、心臓病の発生が明らかに高いことがわかってきたからです。更に糖尿病、喫煙により更に悪化すると言われております。
では、どこまで血圧を下げれば良いのでしょうか?日本高血圧学会では図3に示すように降圧目標を定めました(図3)。
今後起こる可能性のある脳卒中、心臓病等の予防のため75歳以上140/90mmHg未満。75歳未満130/80mmHg未満を目指します。また、他疾患(糖尿病、腎臓病など)の影響でもっと厳格に降圧させることもあれば緩やかにする場合もあり、それぞれの患者さんに合わせた治療が必要となります。
【図3】
治療としたまず行わなければならないのが生活習慣の改善です。つまり、減塩、ダイエット等で予防に努めます(図4)。それでも降圧が困難な場合、薬物療法を行うことになります。現在の降圧薬は主に4種類の薬剤があり、それらを患者個々の状態にあわせて選択します(図5)。
【図4】
【図5】
先ほども記述したように生活習慣の改善は患者さん本人だけでなく家族の協力が不可欠です。電子タバコを含む喫煙は癌の要因の1つであることはよく知られていますが、動脈硬化をも促進させます。特に副流煙による心筋梗塞は日常の診療でも見受けられることから自分の健康、家族の健康を守るために禁煙をお勧めします。
生活習慣の改善でも血圧が下がらない、生活習慣を変えることが出来ない方は薬物治療が必要になります。降圧薬には図5に示すように大きく4種類あり、それぞれ特徴があります。それらの薬物を単独、もしくは複数組み合わせて血圧のコントロールを行いますが、どの薬物をどう使うかは個人差があることなのでかかりつけ医に相談しましょう。また、服薬を始めると二度と止められないのではという質問を受けます。確かに合併症を考えれば簡単には止められませんが、先述した生活習慣の改善等で服薬の減量、中止は可能です。この場合もかかりつけ医と相談してください。
最後に高血圧は誰でも罹り、放置すれば重大な合併症を引き起こす恐れのなる病気です。血圧が高めと診断されたらかかりつけ医と相談し、生活習慣の改善、治療により良好な血圧コントールを目指しましょう。