知っておきたい病気
2020年8月 PM2.5に関わる耳鼻咽喉科的症状
緒方耳鼻咽喉科クリニック
緒方 道彦
PM2.5とは?
ニュースや天気予報などでPM2.5いう言葉をしばしば耳にしますが、この正体はいったい何なのでしょうか?
PM2.5とは、大気中に浮遊する小さな粒子のうち、粒子の大きさが 2.5オm(1μm=1mm の千分の 1)以下の非常に小さな粒子のことです。2.5μmというのは、毛髪の太さの30分の1程度のサイズです。PM2.5はスギ花粉(30~40μm)よりも更に小さな粒子です(図1)。その成分には、炭素成分、硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩のほか、ケイ素、ナトリウム、アルミニウムなどの無機元素など様々でその質は問われません。
また、さまざまな粒径のものが含まれており、地域や季節、気象条件などによって組成も変動します。
【図1】
主な発生源は?
その発生原因は、物の燃焼などによって直接排出されるもの(一次生成)と、環境大気中での化学反応により生成されたもの(二次生成)とがあります。
一次生成粒子の発生源としては、ボイラーや焼却炉など煤煙を発生する施設、コークス炉や鉱物堆積場など粉じん(細かいちり)を発生する施設、自動車、船舶、航空機などのほか、土壌、海洋、火山など自然由来のものや越境汚染による影響もあります。また家庭内でも、喫煙や調理、ストーブなどからも発生します。
二次生成粒子は、火力発電所、工場・事業所、自動車、船舶、航空機、家庭などの燃料燃焼によって排出される硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)、燃料燃焼施設のほかに溶剤・塗料の使用時や石油取扱施設からの蒸発、森林などから排出される揮発性有機化合物(VOC)等のガス状物質が、大気中で光やオゾンと反応して生成されます。
西日本では大陸で発生し偏西風により飛来する越境大気汚染由来のものが高い比率を占めています(図2)。
【図2】
季節等の関連は?
西日本ではPM2.5は主に冬から春にかけ、特に春先には大陸から偏西風に乗って黄砂と一緒に飛んでくることが多く、また夏場には減少します(図3)。
PM2.5濃度はピークであった2010年代前半と比較して減少傾向に有り、環境基準値である年平均値15μg/m3と日平均値35μg/m3を超える頻度は明らかに減少しています(図3)。
スギ花粉症をお持ちの方は、今年は症状が軽かった方が多いのでは無いでしょうか?その理由としては、ただ単に花粉飛散量が少なくシーズンも早期に終わっただけで無く、その期間中は主たる発生源である中国の工場稼働率がコロナ禍で著しく低下していたのも一つの理由です。(アレルギー性鼻炎とPM2.5との関連については後に記します)
【図3】
耳鼻咽喉科的症状とは?
PM2.5は空気と接触するあらゆる部位(上皮)に影響を与えます、また肺胞から吸収され心臓・血管系に障害を来す可能性も示唆されています、この度は耳鼻咽喉科関連の症状のみ記します。
1, 科学物質の直接的な刺激による症状
- 鼻副鼻腔炎症状(鼻汁・鼻閉・くしゃみ・鼻内痛・頭痛)
- 咽頭炎症状(咽頭痛・のどの痒み・咳)
- 皮膚症状(外耳道の疼痛と痒み)
2, アレルギー性鼻炎症状のブースター効果
- PM2.5のうち特にDEPs(ディーゼル排気微粒子)は鼻粘膜上皮のバリア機能を破壊し、花粉アレルゲンの上皮細胞への透過性を亢進させる。その結果通常は発症しない程度の少量の花粉にも反応する事が確認されています。
- またDEPsはIgEの産生量を増やす作用があり、結果ヒスタミンの産生が増加し症状を悪化します。
予防法・対策法は?
大気中の微粒子が体に付着し症状が起きていると言う意味では、スギ花粉症と大略同じ対策を取ります(体に付着させない、付着すれば速やかに除去)、違いは粒子の細かさです。
- 分布状況をチェックし備える(例:http://soramame.taiki.go.jp/)
- 外出に際して
- 多い日は外出を控える
- PMを体に寄せ付けない、付着すれば速やかに除去する
外出前に帽子・メガネ・PM対応マスク等を着用
帰宅時、着衣を良く振り払ってから家に入る
帰宅後は洗顔・うがい・鼻うがい、夜であれば入浴
- 在宅中にする事
- 窓を開け換気をしない、空気清浄器を使う、多い日はすきま風の通り道に目張り
- こまめな掃除、濃度の低い日に換気をしながら行う、さもなければ掃除機のフィルターを素通りしたPMを室内にまき散らす事になる
- 布団を干すのは濃度の低い日にする