一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2020年9月 “子宮頸がん”にならないために

なわたクリニック 婦人科
縄田 修吾

「“CIN”って何ですの?」って、覚えていらっしゃいますか?

5年前に本欄で取り上げた、子宮頸がんの前がん状態である“子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)”という病気について、一人でも多くの皆さんに知っていただきたいとの思いを込めたタイトルです。読んでいただいた方は、大切な周りの方々に、“CINって知ってる?“と話題を提供していただけましたでしょうか?

特に予防できる病気については、「みんなで知って、みんなで予防する」ということが、人生百年時代の今、何よりも大切であると思います。子育て世代や働き盛りの若い女性に増えている子宮頸がんは、進行した状態でみつかると命にかかわりますが、予防できる病気の一つなのです。

“子宮頸がん”とは、子宮の入り口(子宮頸部)にできるがんです。その主な原因は、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルス感染で、主に性的接触で感染するとされています。HPVに感染しても、ほとんどは免疫力で自然に除去されるため一過性の感染で済んでしまうのですが、約10%は持続感染し、CINと呼ばれる状態を引き起こします。このCINには、CIN1、CIN2、CIN3の三つの段階があります。CIN1~CIN2の軽い段階では自然に治癒することが十分期待できるので経過観察でよいのですが、がんの一歩手前の前がん状態ともいえるCIN3に至った段階では子宮頸部を部分的に切除する円錐切除術という外科的手術による治療が必要となる病気です。日本では年間およそ14,000人もの多くの女性がこの手術を受けられておられます。CIN3を治療しなければ、数年をかけて、進行した扁平上皮がんという種類の子宮頸がんになると考えられているからです。

では、女性ならだれでも罹りうる子宮頸がんにならないためには、どうすればよいのでしょう。
まず、一つの方法は、子宮頸部の細胞に異常がないかを調べる、いわゆる子宮がん検診を利用して、“CIN”の段階で見つけることです。そして、かかりつけの産婦人科で、CINをきちんと管理してもらえば、進行した子宮頸がんで将来大変な思いをすることはなくなるということになります。HPV感染やCINの段階では、自覚症状は全くないため、自分で気づくことはできません。ですから、この段階を見つけるためにも、20歳を過ぎたら子宮がん検診を定期的に受けることが必要です。

次に、もう一つの方法として、ワクチンがあります。新型コロナウイルス感染症の予防として、一刻も早い有効な予防ワクチンの開発が期待されていますが、子宮頸がん予防ワクチンとして、すでに3種類のHPVワクチン (2価ワクチン、4価ワクチン、9価ワクチン) があります。オーストラリアなど、がん検診受診率とHPVワクチン接種率が高い国では、HPV感染やCINが減少しており、近い将来には子宮頸がんの撲滅が期待されています。
HPVは、実は100種類以上ある、ありふれたウイルスですが、がん化に関わるHPVは約15種類で、代表的なHPV16型/18型の2種類が子宮頸がんの原因ウイルスの50~70%を占めます。この16型/18型のHPV感染を防ぐワクチンが、2価ワクチンです。4価ワクチンは、16型/18型に加えて、HPV 6型/11型の感染も予防するので、尖圭コンジローマという病気も防ぐことができます。さらに、2014年にアメリカではじめて承認され世界の多くの国で接種されている9価ワクチンは、4価ワクチンの効果に加えて、HPV31/33/45/52/58型にも予防効果があるので、90%以上と、より高い子宮頸がん予防効果が期待されます。日本では、今年7月21日に9価ワクチンの製造販売が正式に承認され、国内でも9価ワクチン接種も可能になる見込みです。

これまで国内では、2009年にHPVワクチンがはじめて承認され、2010年に公費助成によるHPVワクチン接種(2価ワクチン、4価ワクチン)が始まり、2013年4月には予防接種法に基づく定期接種となりました。その後、ニュースなどで取り上げられたのを覚えておられる方も多いかと思いますが、「HPVワクチン接種後に体の広い範囲で持続する痛みなどの重篤な副反応の疑いがある」という報道があり、2013年6月、厚生労働省から「副反応の発生頻度がより明らかになり、適切な情報提供ができるまでの間、積極的な接種の勧奨を差し控える」との勧告がなされました。それに伴って、多くの市町村長の判断で、HPVワクチン定期接種対象者に対して、“個別にお知らせを届けない”、という今日の状況になっているのです。そのため、積極的勧奨差し控えの勧告前には公費助成対象者の70%以上もあったHPVワクチンの接種率は、定期接種として現在でも接種可能なワクチンであるにもかかわらず、0.3%以下と著しく低下しています。

世界保健機関(WHO)は、HPVワクチンの有効性と安全性を認めており、結果的に日本でのHPVワクチン接種率の減少につながった、“日本での近年のHPVワクチンの勧奨中止”を憂慮する旨の声明を発表しています。最近では、2013年以降に明らかとなったHPVワクチンの効果や副反応に関する新しい調査結果を正しく伝えることで、宇部・山陽小野田地区を含めて、国内における接種者も少しずつ増えてきています。さらに、今年1月の厚生労働省の検討部会では、公費助成の接種対象者のいる家庭に、自治体を通じて、HPVワクチンの効果やリスクなどを知ってもらうための冊子とともに、各自治体で接種できる医療機関などの情報も併せて周知するために個別送付する方針を打ち出しています。HPVワクチンに関する経緯や最新の情報は、厚生労働省のホームページに詳しい記載がありますので一度ご覧になるとよいと思います。

公費助成で無料となるHPVワクチンの定期接種の対象者は、小学校6年生~高校1年生です。接種希望者とそのご家族は、HPVワクチンの“意義・効果”と“接種後に起こりえる症状”について十分に理解したうえで、6か月の期間で、3回の接種(筋肉注射)を受けることになります。公費での接種には、高校1年の遅くとも9月までに1回目を始める必要があります。HPVワクチン接種は、性交渉を経験する前の思春期に接種することが最も効果的とされていますが、もちろん、ワクチンの有効性が証明されている年齢層である45歳までの女性は、任意接種(自費)で受けることはできます。ただし、HPVワクチンを接種しても、がんを引き起こす全ての種類のHPV感染を防ぐことはできないので、定期的な子宮がん検診を忘れないで受けましょう。

新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、“新たな生活様式”で、みんなで感染予防に努めている中、命にかかわる病気を引き起こす感染症の怖さを新たにします。子宮頸がんは、日本全体で、年間に約1万人が罹り、約2,800人が亡くなられている重大な疾患なのですが、このがんもウイルス感染が数年から十数年をかけて引き起こす病気である、ということを、みんなで知って、みんなできちんと対策を講じることも、これからの時代に重要なことであると思います。